コラム 第05回民法改正による賃金等請求権への影響について
令和2年4月に民法の一部が改正され、賃金を含む一般債権の消滅時効の期間について、複数あった時効の期間が統一され「知った時から5年(権利を行使することができる時から10年の間に限ります。)」とされることになっています。
これに伴い、労働基準法における賃金等請求権の消滅時効にどのように影響を与えるのか?とても気になるところです。厚生労働省では、この問題について検討会を立ち上げて議論し、以下のようによりまとめました。
賃金等請求権の消滅時効について
以下のような課題等を踏まえ、速やかに労働政策審議会で議論すべき。
- 消滅時効期間を延長することにより、企業の適正な労務管理が促進される可能性等を踏まえると、将来にわたり消滅時効期間を2年のまま維持する合理性は乏しく、労働者の権利を拡充する方向で一定の見直しが必要ではないかと考えられる。
- ただし、労使の意見に隔たりが大きい現状も踏まえ、消滅時効規定が労使関係における早期の法的安定性の役割を果たしていることや、大量かつ定期的に発生するといった賃金債権の特殊性に加え、労働時間管理の実態やそのあり方、仮に消滅時効期間を見 直す場合の企業における影響やコストについても留意し、具体的な消滅時効期間については引き続き検討が必要。
- 新たに主観的起算点を設けることとした場合、どのような場合がそれに当たるのか専門家でないと分からず、労使で新たな紛争が生じるおそれ。
※現行の労働基準法の解釈・運用は、客観的起算点に統一。
年次有給休暇、災害補償請求権の消滅時効期間について
以下のような意見等を踏まえ、速やかに労働政策審議会で議論すべき。
- 年次有給休暇の繰越期間を長くした場合、年次有給休暇の取得率の向上という政策の方向性に逆行するおそれがあることから、必ずしも賃金請求権と同様の取扱いを行う必要性がないとの考え方でおおむね意見の一致がみられる。
- 仮に災害補償請求権の消滅時効期間を見直す場合、労災保険や他の社会保険制度の消滅時効期間をどう考えるかが課題。
記録の保存期間について
- 公訴時効(※)との関係や使用者の負担等を踏まえつつ、賃金請求権の消滅時効期間のあり方と合わせて検討することが適当。
※労働基準法違反である場合、公訴時効は原則3年。
見直しの時期、施行期日等
- 民法改正の施行期日(2020年4月1日)も念頭に置きつつ、働き方改革法の施行(※)に伴う企業の労務管理の負担の増大も踏まえ、見直し時期や施行期日について速やかに労働政策審議会で検討すべき。
※労働基準法違反である場合、公訴時効は原則3年。
- 仮に見直しを行う場合の経過措置については、以下のいずれかの方法が考えられ、速やかに労働政策審議会で検討すべき。
- ①民法改正の経過措置と同様に、労働契約の締結日を基準に考える方法
- ②賃金等請求権の特殊性等も踏まえ、賃金等請求権の発生日を基準に考える方法
賃金等請求権の消滅時効は2年から延長する方向、年次有給休暇は現状のまま2年の方向が示されています。時期については来年の4月の可能性を示しています。賃金の請求権の消滅時効が5年になれば、単純計算で未払い賃金の請求額2.5倍となります。働き方改革の流れと相まって、企業の労務管理対策は待ったなしですね。今後の労働政策審議会での議論から目が離せません。
2019.07.22